あの北本正章先生から賛同と激励のお手紙をいただく!
拙著『「便利な保育園」が奪う本当はもっと大切なもの』について、名著・ジョン・ロックの「子供の教育」を翻訳された、青山学院大学教授の北本正章先生からコメントが届きましたのでご紹介いたします。
北本正章先生からの手紙
(教育学・子ども学者・歴史家・青山学院大学教授)
2013年1月31日
さて、このたびはご著書『「便利な」保育園が奪う本当はもっと大切なもの』(幻冬舎ルネッサンス刊)のご出版、おめでとうございます。
何といってもこのたびのご著書は、保育、幼児教育の現場フィールドで長年、親子の現実を見てこられたお立場からの問題提起ですので、迫力がありますし、説得力があると感じました。
公的補助で保育サービスを上から整備すればするほど税金がかかり、伝統的な育児のネットワークが遮断されやすくなり、サービスに依存し、子育ては親自身が責任を持ってすると言うことが本末転倒のサービス論になってしまい、親の育児能力が低下するというパラドックス、これは、男女共学の拡大や、女性の社会進出を政府が主導し、女性や若者の労働力を安く買いたたく企業に加担した近代福祉政策の罠なのだということ、「意図と結果のパラドックス」(マックス・ヴェーバー)なのだということが、説得力あるメッセージとして響いてきます。
そして、こうした問題提起に対してはすぐに、女性を家庭に囲い込む保守的発想であるなどとレッテル張りをする人が教育学者やジャーナリズムに少なからずおりますが、長田先生の問題提起は、保守とか革新という枠組みを超えたもっと根源的で普遍的な教育の本質に近いところでのものであると、小生などは受けとめています。
そして、歴史家として見た場合、いつの世も、どの社会も、真実を探りあてる人はいつも少数派です。正しいことがすんなりと多数派の賛同を得ることは滅多にありません。しかしそれでも、教育の真実の近くまでたどり着いた人は、諸困難と無理解の中でも、正しい真実を訴え続けるというミッションを帯びます。わたしは、少数派の周縁にいる者として、長田先生の実践と問題提起をそのように見ています。
わたしもだいぶ前の著作で、教育の近代化の中で、ヨーロッパ諸国では、育児と教育が次第にエキスパートに依存するようになってきたために、子育ての必須基盤を構成する親の育児能力が低下してきているのではないかということを問題提起し、その書評が日本教育学会の紀要「教育学研究」でも取り上げられたことがあります。長田先生のご著書では、こうしたエキスパート化が、もはや歯止めがきかないほどの大きな力となって子どもの育成環境に危機的にはたらいていることが、よく読み取れます。
政治家や行政者のように年度年度の予算枠的な発想、あるいは次の選挙のためにしか教育のことを考えない人たちがこの切実さを正しく理解できていないことに、もどかしさを感じている人は多いと思います。
今回のご著書の問題提起に対して、厚生省の心ある官僚と、それを支えるエキスパートの方々、教育学や子ども学の専門家や研究者はしっかり目を見据えて、応援していかなくてはならないと思っています。
今日の保育、とくに最初の3年間ぐらいの子どもの教育—とそれを支える若い夫婦の雇用の安定—についての問題提起と、実践に根ざした解決策の二つの部分それぞれが、心ある保育実践者や為政者、研究者の間で、そして何よりも世の親御さんたちの間で主体的に共有されるよう、わたしも、未来の父親、母親である学生たちに本書の問題提起を伝えていく所存です。いずれ課題図書として授業や研究会などで読み広げてゆくつもりです。
頓首再拝
2013年1月31日
北本正章
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